小話 ざくろ美人 その2
無言のにらみ合いが続いた。
が、
先に動いたのは私の方だ。
不安定な足場で中腰姿勢を続けていたので
重心がかかっていた右足が限界に達したのである。
今思うと何をどう考えた末の結論かわからないが
どうやら相手に害意は無いと判断した私は
重心を痺れた右足から左足に変えて、背を伸ばしてそのままザクロを拝借した。
そしてブロック塀の上に腰掛けて相手をにらんだままザクロを割り
黙って食べ始めた。
相手からすれば猿以外何者でもない所業だったと思う。
私がざくろを食べ始めると、娘さんも両手のざくろを思い出しかのように見つめ
また黙って再び食べ始めた。
お互い黙ってざくろを貪りつく。一時休戦。
ブロック塀の上からざくろを食べながら娘さんを観察すると
異常に肌の色が白く、またきめ細かいためか夕日をよく反射しこの世にならざるものに感じた。小学生の私からみても非常に美人に見えた。クラスの一番の美人と言われているサチやんをふと思い出したがすぐに消えた。
今思うとになるのだが、ざくろには美容成分が非常に豊富で女性ホルモン似たものが多分に含まれているらしい。家にあるざくろを日頃から食べていた影響なのかなと思う。
そんな娘さんが指先と口元を真っ赤に染めながら一心不乱にザクロを食べている様子をみると何か不気味のような不思議なようななんとも言えない印象を受けた。それは今でも変わっていない。
私はこの娘さんを勝手にあだ名をつけて「ザクロ美人」と呼称する事にした。
我ながら安直なあだ名である。
そんなこんなで己の所業は一切省みず、相手の事を考えながらざくろを食べ終わった。
ざくろは非常においしいのだが非常に手がべとつく。また色がつきやすい。
また不可食部が多く、食べ終わった後は種が散かり虚しさがばかりが残る。
おいしいざくろであるため尚更である。
相手もざくろを食べ終わったらしくこちらをジッとみている。
自分も用事が終わったし、足の痺れがとれたのでそろそろ帰るかと思い、
ブロック塀の穴に足をかけて帰ろうとした、
すると、「ザクロ美人」が犬猫が去るの惜しむような顔を一瞬見せた後、
ニコッと笑い、手を振った。
私はそれが意外な反応だったため一瞬ギョッとなったが手を振り替えし
ブロック塀を降りてその場を後にした。
多分つづく。